下畑 研究室
研究室紹介Laboratory
戻る下畑 研究室
戻る研究室概要
「現在、国民医療費が膨張しつつあり、我が国が誇る国民皆保険制度の持続的な継続が危機に直面している」そんな話を聞いたことはないでしょうか。国民医療費の膨張にはいくつかの要因があり、その一つとして高齢者人口の増加があるとされています。その他にも、医療技術の高度化、即ち高額な医療技術の増加も一つの要因とされています。
このような状況において、医療財政の悪化を抑制し国民皆保険制度を維持するための一助となるべく、2019年度より政策として始まったのが、「医薬品、医療機器及び再生医療等製品の費用対効果評価」制度です。ここで重要なのが、単に対象の医療技術の有効性や安全性だけに注目するのではなく、費用も同時に評価して適正な価値を測るということです。この制度には、様々な機関の関係者が関わっています。製薬企業や医療機器メーカーといった民間企業、厚生労働省や国立保健医療科学院C2H (保健医療経済評価研究センター) といった公的機関、そして学術機関である大学がそうです。私は現在、この制度に参画しており、研究や評価の実務を行っておりますa,b)。
関連する文献
- a) Cost-effectiveness evaluation of ropeginterferon α-2b for polycythemia vera patients who have an inadequate response or intolerance to existing treatments. ATAG Reports, 2(7), 2024.
- b) Cost-effectiveness evaluation of deucravacitinib for plaque psoriasis patients who are not sufficiently responding to existing treatments. ATAG Reports, 2(3), 2024.
研究室の主な活動
医療技術評価
上で述べた「医薬品、医療機器及び再生医療等製品の費用対効果評価」制度ですが、一般的には日本における医療技術評価 (Health Technology Assessment, HTA) と捉えることができます。HTAは世界各国で実施されており、「公平かつ効率的な、そして質の高い医療制度を促進するために、意思決定の際の情報を提供する」(INATHA Homepageより) ことにその目的があります。もう少し具体的に説明しますと、患者の生活を改善する治療が公平になされるように、しかし患者にとって大きな利益とならない治療に対しては社会や患者が過剰な支払いをしないように政策に提言する、ということです。上段でも述べたように、この制度には産官学の様々な関係者が関わっているのですが、まだまだ人手が足りていないのが現状です。私の研究室では、学生の皆さんと共にHTAの研究に尽力し、この制度に関わる人材を育てることを大切な目標と考えています。
医療機器のHTA
研究室の主要な研究目的として、「医療機器の」HTAに関してより深く研究することも挙げられます。昨今、医薬品も同じなのですが、技術革新が進展し新たな医療機器が市場に登場しています。例えば、デジタル技術の進歩に伴うSaMD (Software as Medical Device, プログラム医療機器) の登場などが代表的な例でしょう。医療機器のHTAには、様々な課題があると言われています。医療機器においては、臨床試験の実施に困難を伴うことが多い、医療機器の有効性が使用者のスキルや経験年数に依存することがあるなど、医薬品の場合とは異なる考え方が必要となります。現状、日本における費用対効果評価制度での医療機器の評価の事例は少なく (評価完了:2品目, 2024年8月時点) 議論が深まっておりませんが、医療機器のHTAの様々な課題に精力的に取り組んでいくことを望んでおります。
バイオマテリアルを用いた医療機器開発、及びケミカルバイオロジーを用いた創薬研究
当研究室では、医学的に応用可能な化合物 (低分子?高分子) に関して、臨床的な応用法の開発やその分子の生理的作用機序の解明も行っています。現在は特に「生体適合性材料 (バイオマテリアル) を用いた医療機器開発」、及び「ケミカルバイオロジーを利用した創薬研究」に焦点を絞って研究しております。対象となる疾患は、アトピー性皮膚炎、変形性膝関節症、骨欠損などです。新たな治療手段となるmodalityの創出に意欲的に取り組んでいます。
受験生へのメッセージ
HTAは学際的な学問であり、公衆衛生学、医学、統計学、医療経済など様々な学問領域が関わっています。学際的な学問を取り扱っている本研究科はHTAを学ぶにための相応しい学びの場であると思います。また、本学で養成される人材 (リサーチャー、ビジネスパーソン、アドミニストレータ、ポリシーメーカー) はHTAの発展に必要な人材と完全にリンクしていると思います。もし、医療機器や医療技術評価に興味をお持ちでしたら、是非ご連絡ください。
自己紹介
京都大学大学院理学研究科博士課程修了。博士 (理学)。医療機器メーカー、立命館大学等を経て現職。慶應義塾大学客員准教授。専門領域は、医療技術評価、医療機器研究開発、バイオマテリアル。研究テーマは、医療機器における医療技術評価の方法論、バイオマテリアルを用いた医療機器の基礎研究開発。
主な業績
- Age at surgery and native liver survival in biliary atresia: A systematic review and meta-analysis. European Journal of Pediatrics, 182(6):2693-2704, 2023. DOI: 10.1007/s00431-023-04925-1
- Cost-effectiveness analysis of universal screening for biliary atresia in Japan. Journal of Pediatrics, 253: 101-106.e2, 2023. DOI: 10.1016/j.jpeds.2022.09.028
- Proteomic analysis of nascent polypeptide chains that potentially induce translational pausing during elongation. Bioscience Biotechnology, Biochemistry, 86(9): 1262-1269, 2022. DOI: 10.1093/bbb/zbac097
- Trehalose treatment decreases the blood clotting in the cerebral space after experimental subarachnoid hemorrhage. Journal of Veterinary Medical Science, 82(5): 566-570, 2020. DOI: 10.1292/jvms.19-0201
- Repair of segmental radial defects in dogs by using tailor-made titanium mesh cages with plates combined with calcium phosphate granules and basic fibroblast growth factor-binding ion complex gel. Journal of Artificial Organs, 20(1): 91-98, 2017. DOI: 10.1007/s10047-016-0918-5